グッバイ・メロディー
「ところで、もうお迎え来てるみたいよ?」
「えっ」
「ほら、あそこ」
いつもの場所、教室のうしろのドア。
退屈そうにもたれかかる大きな影に気づいて慌ててリュックをひっつかむと、チャックが全開だったみたいで、半分以上を床にぶちまけてしまった。
「あああ……!!」
「もー、ほんとにどんくさいな、季沙は!」
最初に飛びだしたペンケース、そしてあらゆる場所に散らかったペンたちを、おとぎ話のように美しい指が拾い上げていく。
「ごめん、ありがとうっ」
「いいよ。早く行ってあげなよ」
無事にすべてをリュックに収めると、しっかりファスナーを閉めて。
少し照れくさいような気持ちで何週間かぶりに手を振ったら、ひらひらと軽快に振り返してくれた。
こんなにもささいなことを、いまはとてつもなくかけがえなく思う。
「こうちゃん、お待たせっ」
「ん、準備できた?」
「できたー」
とてもかけがえなく思っているもうひとつの手が、当たり前にわたしを迎えにきてくれた。
知らなかったこと。
見えなかったこと。
感じてこなかったこと。
こうちゃんに恋をして、こんなにもたくさんあったのだと、実感した。
とても大切なものばかりだったのだと、泣いちゃうくらいに思い知った。
だからわたし、こうちゃんのお隣に生まれてよかった。
こうちゃんを好きになって、本当に、よかった。