グッバイ・メロディー
「もっと?」
いまだ半開きの口元に問いかけると、それはすぐさまぎゅうぎゅうと固く結ばれた。
「もうしないもんっ」
「ん、しない?」
「きょうはしないっ」
そんなこと言って、俺が素直に「わかった」と引き下がると不服そうにむくれるくせに。
ちょっと甘やかしてきすぎたかな、と、こういうときは思ったりもする。
それでも、こんなわがままも俺だけが知っているものなら、これ以上ないほどの宝物にさえ感じてしまうのだ。
どれだけわがままを言ったっていい。
わざと困らされたってかまわない。
なにをされても俺はきっと怒らない。
だからそのかわり、その全部を永遠に、俺だけにむけていて。
「じゃあ一緒にも寝ない?」
肩に頭を乗っけて問うと、すぐ近くにあるかわいい耳がすぐに赤く染まった。
「……こうちゃんって、やっぱり宇宙人なの?」
いきなりそんな意味不明なことを言い出すやつのほうがよっぽど宇宙人では。
「いきなりなに」
「だってわたしたちつきあってるんだよ……?」
「うん」
「い、いっしょに寝るって、つまりそういう、そういうことを、ですな」
「うん?」
季沙がいまなにを考え、なにを言わんとしているのか、だいたい想像はついている。
そういう知識を彼女はいったいどこで身につけてくるのだろう。
季沙も俺の知らない場所で順番に大人になっていっているのかと思うと単純にさみしくて、なんだかやりきれなくて、ここに捕まえておくためにもっと腕に力をこめた。
瞬間、いつもやわらかい感触の体が硬直した。