グッバイ・メロディー
「あの、お、おつきあいを始めてからわたしは毎回とても緊張して……意を決していっしょに寝てるんだよ……!」
「べつに緊張も決意もしなくていい」
季沙が俺のことを好きだというなによりもの証な気がするから、そうしてもらえるのは本能の部分でかなりありがたい、というのもまた事実だけど。
「それとも季沙がしたいなら俺は」
「こうちゃんのばかっ」
おもいきり顔面に張り手をかまされた。
「したいってなに! なにを! いったいなにをですか!」
それは季沙がいちばんよくわかってるんじゃないの、と言いかけて、本気の張り手はけっこう痛かったので思いとどまる。
それに、もう帰る、と言われてしまったらそれこそジ・エンドだ。
もぞもぞと腕から逃れ、ふてくされたように先にベッドに潜りこんでしまった彼女を追いかけようとしたら、直前でストップをかけられた。
「ガトーショコラ食べたでしょ。歯みがきしてきて! あと食べかけのやつちゃんと冷蔵庫に入れてきてっ」
これ以上機嫌を損ねれば、きっと俺はこの冷たい床の上で朝を迎える羽目になるのだろう。
それはさすがに避けたいのでおとなしく言葉通りにすべてをこなし、やっとの思いで戻ってくると、すでに半分夢のなかへ行きかけた季沙は見事に俺に背をむけていた。
俺の頭を乗せる面積などもはや残っていない枕をそっと引き、細い首の下に腕を通す。
なにも言わないくせにちょっと頭を持ち上げてくれるしぐさが、受け入れてくれているようでたまらなく嬉しい。
反対の腕も体にまわし、抱えるみたいにうしろから包みこむと、ふにふにした感触がすぐに指先をさわってきた。
「こうちゃんの手、すき」
むぎゅむぎゅ、小刻みに動いている手にそっと指を絡める。