グッバイ・メロディー
「手だけ?」
「いじわる」
俺の何倍も小さくて、ぜんぜん違う手ざわりで、この世の優しさのすべてが詰まっている。
こうして繋いでいるとこれ以上ないほどに安心できる、季沙の手が、俺も好きだ。
こみ上がる気持ちをぶつけるように首元に顔をうずめると、腕のなかで季沙が身をよじった。
「もう、こうちゃん、くすぐったいよ」
俺が季沙と一緒に寝るのが好きなのは、暗闇に視力を奪われた状態だと、それ以外のすべてが研ぎ澄まされるからだ。
やわらかいにおい。
触れている場所の感触。
小さな呼吸の音。
五感すべてで季沙を感じられるこの時間は、俺しか手に入れられない、特別なもの。
「こうちゃん、甘えんぼう」
なんだっていいよ。
宇宙人だろうが、いじわるだろうが、甘えんぼうだろうが。
こうして抱きしめることを許してくれるなら、俺は季沙の望む何者にだってなれる。
「あのね、ぜんぶ大好きだよ」
手だけ、の質問の答えがいまさら返ってきた。
笑ってしまった。
なんで笑うの、と背中越しに文句が飛んでくる。
「俺も好き」
きっとなにも変わっていないはずだ。
ただの幼なじみだったころと、そうじゃなくなった現在。
これまでなんとなくおぼろげだった関係に、明確な、わかりやすい名前が付いただけ。
「おやすみ、こうちゃん」
だからこそ、このぬくもりを抱きながら眠る夜がどうか途切れることなく続いてほしいと、本気で祈った。