グッバイ・メロディー
「きっちゃんが東京に行くも、行かないも、洸介が決めることじゃないよ。それはきっちゃん自身が決めることなんだから」
「うん、わかってる」
「いいや、わかってないね」
どこか厳しい響きだった。
「もう、絶対に行くつもりなんでしょ。すでに心は決まってるんでしょ? 顔を見たらわかるよ。誰にも、きっちゃんをもってしても、きっと洸介を引き止められないんだろうなあって」
俺より26年分だけ長く生きている母がふっと息を漏らした。
「それでも洸介が、きっちゃんを絶対に失いたくないと思う気持ちもわかる。大切な人が傍にいてくれないのは本当にさみしいもんね。私たちはそれを、よく知ってるもんね」
絶対に泣きたくない。
そう思ったときには、いつももう手遅れだ。
知らないうちにぼろぼろ落ちてくる涙をどうすることもできず、ただ茫然とするしかない俺を、母さんはそっと抱き寄せた。
「洸介がこんなにもぐちゃぐちゃになるくらい大事な想いをたくさん抱えてるように、きっちゃんだって同じだけなにかを想ってるはずだよ」
淡いブルーのTシャツ。
その袖が一粒ずつ濃紺に染まっていく。
それをどこか他人事のような感覚で眺めながら、俺はもしかしたら本当に今夜死んでしまうのかも、と錯覚した。