グッバイ・メロディー


「ありがとう」

「ううん。お母さんのところに生まれてきてくれたのが洸介でほんとによかったなーって、なんか改めて思っちゃった」

「急になに」

「だってこんなに優しくて、こんなにかっこよく育ってくれて! お母さんにはもったいないくらい素敵な、自慢の息子だなあ」


それは買いかぶりすぎなのでは。


「なおくんに似てくれて本当にうれしい」


母さんが父さんのことをそう呼ぶことは知っていた。

でも、こんなふうに(じか)に呼びかけられるのは、はじめてのことだった。


ひとりぼっちでなど置いていかれたくなかっただろう。

ついていきたいと思ったこともあったかもしれない。

もし俺がいなかったら、父さんをとても好きな母さんは、ひょっとしたら本当にそうしていたのかもしれない。


それでも、踏みとどまって、思いとどまって、ここにいてくれて、ありがとう。


置いていくことになって、ごめん。

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