グッバイ・メロディー
――“きみたちが選ぼうとしている道はそういう代償がつきものなんだ”
関谷さんに言われた台詞を思い出していた。
俺にとって大事ななにかとは決して季沙だけじゃないのだと、ちゃんとわかっていたようで、それはひょっとしたらどこかで忘れていたことだったかもしれない。
「あのさ、東京に、行こうと思うんだけど」
改めて向き直った息子に、母親はいったい何事かと目を丸くする。
「いい、ですか」
順番が逆になってしまったけれど。
「そうだね、面とむかってそう言われると、かわいい息子を手放すのはちょっとだけさみしい気もしちゃうな」
そう言い、ぐるりとリビングを見渡した。
そうだ、俺がいなくなれば、この広すぎる家から『ただいま』と『おかえり』が完全に消滅してしまう。
そのさみしさは、俺がいちばん知っていることだ。
「でも、はじめて洸介が自分から“やりたい”って言ってくれたことだからさ。それがすっごく嬉しいし、応援したいと思ってる。ギターを残してくれたなおくんと、かっこいーっておだててくれたきっちゃんに感謝しちゃうくらいにね」
いきなりぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
「もちろん、いいよ。行っといで。行くからには楽しんどいで。やりたいこと全部、めいっぱいやっといで!」
全身に鳥肌が立っている。
たぶん一生かかっても、俺は、この人にだけは敵わないと思う。