グッバイ・メロディー


「でもね、万が一しんどくなったときはいつでも帰ってきていいんだから、それだけは忘れないでよ?」


引っこんだはずの涙が逆流しそうなのを慌ててこらえた。

どうやら一度緩んだ涙腺というのはしばらく緩みやすくなっているらしい。


「ひっひっひ。洸介の泣き顔、10年ぶりくらいに見ちゃった」

「あーほんとやだ」

「いいじゃん。かわいいよ? 泣き顔は幼稚園のころから変わんないねえ。きっちゃんにも見せてあげたら?」

「死んでもやだ」

「なんでー! かわいーって言ってくれると思うけどなあ」


どれだけ顔を背けてもなおしつこく追いかけてくるゲスな笑顔から逃げつつ、すっかり冷めたココアを飲み干す。


舌が溶けそうに甘ったるい味。

好みを知ってくれている、こんなささいなことを、とても大切に感じる。


俺には帰ってくる場所があるのだ。

迎えてくれる人がいるのだ。


そう思うと、心に重くぶら下がっていた荷物がひとつ、すっと消えていったような気がした。




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