グッバイ・メロディー
「俺も同じクラスがよかった」
幼稚園も小学校も中学校も高校も同じだというのに、15年間のうち俺たちのクラスがかぶったのは小学4年生のときだけだ。
修学旅行も一緒に行けたためしがない。
「わたしだってこうちゃんといっしょがよかったよ」
俺が言ったのより5倍は軽い言い方だった。
じろりとふり向くと、触り心地抜群の頬がぷくーと餅みたいに膨れている。
「せっかくこうちゃんと見ようと思って買ってきたのに」
ガイドブックを持った季沙が唇を突き出しながらこっちに寄ってきた。
べたりと、しがみつくみたいに背中に抱きつかれる。
俺たちの関係の名前が“恋人”に変わってから、こんなふうに季沙のほうからくっついてくることが、本当に多くなった。
「すぐやきもちやくんだからなあ」
べつに、やきもち、というか。
季沙の手を触った前科があるのと、いまだに季沙の周りをウロチョロしているのが単に目障りなだけ。
もしかしたらやばいかも、とは思っていたのだ。
わざと季沙と距離を置いていた期間、木原に限らず、誰かが季沙にちょっかいかけてくるかもしれないという懸念なら、少なからずあった。
それがまさか本当に的中してしまうなんて。
一瞬で猛烈に後悔した。
木原が季沙の手を握っているのを目撃したとき、距離を置いてるとか置いてないとか季沙が俺を好きとか嫌いとか、そんなもの全部吹き飛ぶくらいに。