グッバイ・メロディー
「勝手に東京に行くのは俺だけど、それでも、季沙を連れていきたい」
もちろん嫌だと言われてもかまわなかった。
むしろその覚悟のほうが大きかった。
神を信じたことはないけど、いまはもうそれに祈るような気持ちだ。
するといきなり季沙が、ぼろりと大粒の涙をこぼしたのだった。
「……え?」
さすがに焦る。
たしかに、自分勝手な無理難題を押しつけている自覚はあるが。
まさか、泣くほど嫌がられるとは思わなかった。
こんなに悲しませることになるとは想像できていなかった。
あまりに予想外のことにうなだれるしかない俺の手を離れ、季沙は小さな手でぐいぐい涙を拭う。
そのあいだにも大粒のしずくは止まらないで降り注ぎ、柔らかな頬を濡らしていく。
「ごめん、季沙」
「ちがうの」
ぽこんと胸を叩かれる。
「ちがうから、謝らないで」
「なに……」
ぽこぽこ、連続して何度も、弱々しくて強い力が俺の胸や腹や肩を叩いた。
「わたしは連れていってもらえないのかと思ってた」
そしてもうぐしゅぐしゅに濡れた声で、本当にか細い声で、季沙は怒ったように小さく叫んだのだった。