グッバイ・メロディー


「勝手に東京に行くのは俺だけど、それでも、季沙を連れていきたい」


もちろん嫌だと言われてもかまわなかった。

むしろその覚悟のほうが大きかった。


神を信じたことはないけど、いまはもうそれに祈るような気持ちだ。


するといきなり季沙が、ぼろりと大粒の涙をこぼしたのだった。


「……え?」


さすがに焦る。

たしかに、自分勝手な無理難題を押しつけている自覚はあるが。


まさか、泣くほど嫌がられるとは思わなかった。

こんなに悲しませることになるとは想像できていなかった。


あまりに予想外のことにうなだれるしかない俺の手を離れ、季沙は小さな手でぐいぐい涙を拭う。

そのあいだにも大粒のしずくは止まらないで降り注ぎ、柔らかな頬を濡らしていく。


「ごめん、季沙」

「ちがうの」


ぽこんと胸を叩かれる。


「ちがうから、謝らないで」

「なに……」


ぽこぽこ、連続して何度も、弱々しくて強い力が俺の胸や腹や肩を叩いた。


「わたしは連れていってもらえないのかと思ってた」


そしてもうぐしゅぐしゅに濡れた声で、本当にか細い声で、季沙は怒ったように小さく叫んだのだった。

< 404 / 484 >

この作品をシェア

pagetop