グッバイ・メロディー
ああ、こんなふうになるほど、不安にさせてしまっていたのか。
勝手にひとりで悩んでいる気になって、いちばん大切なことが見えていなかった。
「ひとりで置いていかれちゃうのかと思ってた」
言いながら泣き顔を隠す両手をそっとどける。
この愛しいしずくをすべて拾い上げるのは、昔からずっと俺の役目だった。
いまも、
これからも、
そう、ずっと。
季沙の涙のひと粒でさえ、誰にもやりたくない。
「こうちゃん、『行く』って言っただけだったもん。『行こう』って言ってくれなかったもん……」
「うん、ごめん」
「……連れていってくれるの?」
もういちど手を繋いで、額どうしをくっつけて。
「連れていくよ。どこまでだって」
だから、ついてきてほしい。
この手を離さないでいてほしい。
俺も離さないから。
季沙にもずっと、握り返していてほしい。
「あのね、いいの」
大きく鼻をすすった季沙がまっすぐ俺を見上げた。
「なんの保証もないとか、さっきいろんなこと言ってたけど、ぜんぶいいの。こうちゃんと離れるより耐えられないことなんてこの世になにもないもん」
このまま死んでしまってもいいとさえ思う。
嘘だ。
絶対に死にたくない。
生きて、生きている季沙の傍に、ずっといたい。
高い体温に触れて、小さな体を抱きしめていたい。
きっと、最初から最後まで、
季沙だけをどうしようもなく好きだ。