グッバイ・メロディー


「――お父さんは反対だな」


サーターアンダギーをひとつパッケージから取り出しながら、お父さんが眼鏡の奥の瞳を厳しく光らせた。


何気ない報告のつもりで、沖縄のお土産話のついでみたいに、話した。

こうちゃんと東京に行くことにしたということ。


反対されるなんて夢にも思わないよ。

だって、幼なじみとつきあうことになったと伝えたとき、お父さんもお母さんもまるで結婚が決まったみたいに喜んでくれたから。


「季沙は東京になにしに行くんだ?」

「だから、こうちゃんと……」

「洸介は音楽をしに行くんだろう?」


いつも本当に優しくて、なにをするにもひとまずやってみればいい、失敗してもいい、と応援してくれるお父さん。

思い返せばわたしのしようとすることに、反対されたことなんて一度もないかもしれない。


「季沙は? どこの大学のなんの学部を受けて、なにを目指して勉強するんだ?」


わたし、は。

わたしは、
なにしに東京へ行くんだっけ?


「季沙は、なんの目的もなく、ただ東京に行くのか?」


なにも答えられなかった。

お父さんはわたしがしゃべるのをしばらく待ってくれたけど、最後まで、けっきょく一言も見つからなかった。

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