グッバイ・メロディー
なんだか胸の真ん中がくすぐったい。
どうしようもなくむずむずして、こうちゃんの隣にぴったりくっつくと、その肩にそっと体重をあずけてみた。
音符が振動として体に伝わってくる。
なんて、心地いいのだろう。
そう、すべての始まりは10歳の冬。
こうちゃんと、わたしと、形見のギターと。
3人が出会ったから、わたしたちはいまここで、こんなふうにできているんだね。
そう思うとすべてが不思議だった。
ふり返れば本当にいろんなことがあった。
なんでもわかりあっているはずだったこうちゃんと、たくさんすれ違って、たくさん泣いたりもした。
恋人になるって、思ったよりもむずかしくって。
ステージと客席のあいだには、思ったよりも距離があって。
でも、いつだって最後には全部を大丈夫だと思えたのは、隣にいるのが、こうちゃんだったから。
そして、大切な人たちが、ずっと傍にいてくれたから。
これからも必ず、やりきれないほどさみしい夜はやってくるし、わかりあえずに泣く日だってきっとある。
数えきれないほどあるんだろう。
でもね、こうちゃん。
わたしはきっと、このでたらめな歌を、みんなのいるこの景色を、忘れない。
一生、忘れない。
だから、離れ離れになったって、こうちゃんが手の届かないような遠い誰かになったって、ぜったい大丈夫だって思えるんだ。
「季沙、眠い?」
「ううん、あのね、こうちゃんの音を聴いてるの」
目を閉じればいつもすぐそこにある、こうちゃんにしか使えない、とっておきの魔法。
ねえ、こうちゃん。
やっぱりわたしは、この場所が、世界でいちばん好きだよ。