グッバイ・メロディー


「ごめんね、おまたせっ」

「ん、準備できた?」


どこかほっとする、いつもの優しい低音。

はなちゃんの言う通り、ちょっとやそっと待たせることになっても、もしかしたら1時間待たせちゃったとしても、こうちゃんは絶対に怒ったりしないんだろうなって、この声を聴くたびに思う。


「きょうは誰連れてるの?」


こうちゃんの右肩にぶら下がっている大きな相棒をそっと撫でてみる。

ギグバッグ、と呼ばれている頑丈なギターケースは、触ってみても中身がぜんぜん見当もつかないの。


「ストラト」


こうちゃんは簡単に答えた。

あからさまに口を尖らせてみせると、「なに」って、横顔がちょっといじわるな感じに笑った。


『ストラトキャスター』は黒いやつだな。

“ザ・エレキギター”って感じの形をしている、高校入学と同時にこうちゃんが買った、いちばん新しいギター。


こうちゃんはギターを3本所有している。

弾き心地とか、出る音とか、(ひず)み(なにそれ?)とか、少しずつでもまったくベツモノなんだって。


素人にはぜんぜんわからないこだわり。


「“ストラト”じゃなくて“エレ(きち)くん”ねっ」

「そうだっけ」


こうちゃんは、ギタリストだ。

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