グッバイ・メロディー
10歳の冬にギターと出会ってから6年のうちに、こうちゃんは本当に“ギターを弾く人”になってしまった。
それも、ただの趣味なんかじゃおさまらないくらいの。
だって、ふつうの高校生の男の子は3本もギターを持っていないと思うんだよ。
これは勝手なわたし調べ。
「“エレ吉くん”と“ギー子さん”と“ギタ美ちゃん”だよ」
いつもこうちゃんの部屋で出迎えてくれる、黒いのと、深いブルーのと、丸っこいのを順番に思い浮かべる。
ちなみに『ギタ美ちゃん』がこうちゃんのお父さんの形見。
アコースティックギターだから、この子だけ見た目がまったく違う。
「ストラトとレスポールとエレアコ」
こうちゃんが少しだけ口元を緩ませながら訂正した。
ストラトレスポールエレアコ。
なんだか呪文みたい。
それでも、わたしはこうちゃんのギターが好き。
ギターそのものも。
そこから生まれる音も。
機材についても詳しくないし、楽譜(ほんとはタブ譜というらしい)も読めないし、コードも覚えられないし、どれだけ触ってみてもうまく弾けないから、いつまでたっても聴く専門だけど。
こうちゃんの弾くギターは、いつでも帰ることを許してくれる優しい場所みたいで、すごく安心する。
当たり前にずっと隣にある音だからかな。