愛なんていらない。
湧は驚きはせずに、腕を回し支えてくれた。
抱き着くのは、私からすれば極自然なことだと思う。
不安になったり、感情が揺れたときには、優の温もりに包まれたくなる。
湧が優しすぎるから、何度でも甘えてしまう。
-と、湧の後ろに誰かがいるのが見えた。
「あ…悪ぃ。そこにコレがいてな」
私の視線に気付いたのか、入口をどけて中に入るように促した。
「あ」
-それは私の見知った人物だった。
「…久しぶり?」
「うん。久しぶりだよ、尚(なお)」
手を挙げてニカッと笑った彼は、以前と全くというほど変わっていなかった。
身長は伸びたっぽい…
敵。
「修旅でなぁ。近くまで来たで顔だしに来てやったんや」
修学旅行…?
今は確か、というか壁にかかっているカレンダーでも秋だ。
修学旅行は基本的に春だったように思えるが。