愛なんていらない。



「慣れてんなぁ」


「いつものことだろ」



皮肉をこめて言えば「それは俺もだよ」と返ってきた。


確かにそうだ…



忘れてたのは慣れすぎたからだ、と自分に言い聞かせておく。

ぼろが出て尚に文句を言われないように。




「むぅ…眠気がとれない」


目を擦りながら戻ってきた蒼。


前髪が濡れているから、洗ってきたであろうことはわかった。

いつも通りならお昼には完全に目を覚ますはずだから、ここは放っておいて大丈夫だ。

…長年の勘ってやつだから信用にはあたいしないが。



少し調子が戻ってきて、これからのことを尋ねる。蒼は無理そうだから尚に。


その答えはあっさりしていて、でも、人生をも変えてしまうような言葉で。



「暫くコッチに住もうかなぁ」


「…………」


幻聴ならば嬉しいことこの上ないが。

きっと蒼も同じだ。


「こっち、って?」



余程その一言に驚いたのか、冴えてきたらしい蒼。

でもそこまで驚いてはいなかった。


何かを悟ったような…そんな目をしていた。



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