あなたの恋を描かせて
わたし、何してるんだろう……自分でもよく分からない。
でも、気づいたら鉛筆を持っていた。
不思議……
絵の線をなぞるように軽く撫でる。
いつもは描く対象が目の前にあって、それを忠実に描いてゆく。
それがわたしのやり方で、うまく描くコツだと思っていた。
なのに……城越くんの絵は、何も見ないで描くことができた。
正確に言うと、何も見ないでと言うよりは、目を閉じると城越くんの笑顔が浮かんできて……
それを思い出して描いたというか……
今までそんなことで描けなかったのに。
それぐらい、わたしの中の城越くんの存在は大きいってことなの?
意識しないで自然に思い出すぐらい?
な、なんか恥ずかしい。
頬を触ると、手の温度より少しだけ熱くなっていた。
あぁ、やっぱりわたし城越くんのことが好きなんだ、と思ったけど……
だからこそ思い出してしまうあの日のこと。
抱きしめられて、キス、されて……
嬉しくない、と言ってしまうと嘘になるけど、城越くんの気持ちが分からないから、手離しで喜べるかというと……
「微妙、なんだよね……」
う、嬉しかったけども……
そっと人差し指で唇に触れてみると、あのときの感触が蘇る。
城越くんの唇、柔らかかった……
それにびっくりするほど熱くて。
連鎖するように、抱きしめられたときの腕の強さや手の感覚も思い出してしまい。
「もうっ…これじゃ、わたしがへ、変態みたいじゃない……っ」
これ以上頭を使うと、余計なことまで考えてしまいそうでふるふると頭を振る。
こういうときは寝るのが一番だよね。
浅葱も寝ろって言ってたし。
スケッチブックをテーブルの上に置いて、わたしは頭まで布団を被った。
けど、頭の中を占めるのは城越くんのことで……
ドキドキしてしまう心臓の音に気づかないように、わたしはギュッと目を瞑った。