あなたの恋を描かせて
「それで、どうしてちなつちゃんはここに来たの?」
気まってるじゃない、と言ってちなつちゃんはわたしの手をとる。
「剣道部の試合見に来たの」
「だ、だよね……」
となると、この中に入って行かないといけないのは明白で。
今更ながら逃げたいと思っても、手はちなつちゃんにがっしりと掴まれている。
「とにかく行くわよ」
「え……」
ぐっと引かれたかと思えば、わたしは人混みの中に入っていった。
押されたり引っ張られたり大変な思いをして、やっと呼吸ができる場所に……
お、女の子ってすごい。
洋服のバーゲンセールとかでもいつもこんな思いをするのかな。
それが分かっていながら喜んで行くんだもん……
わたしは尊敬するよ。
頭の中でそんなことを考えていると明乃ちゃんが視界に入った。
「葵ちゃん、ちなつちゃん、こっち!!」
明乃ちゃんもわたしたちに気づくと手を振る。
その様子は少し興奮しているように見えた。
「今から始まるって!」
「間に合ったのね。よかった」
わたしは全然よくないよ……
どうしてこんな思いをしてわざわざ試合なの?
ちょっと不満はあるけど。
振り返ってみると人ばかりで。
……戻る勇気はないなぁ。
二人には気づかれないようにこっそりとため息をもらす。
仕方ない。人が少なくなるまでは見ていようかな。