あなたの恋を描かせて
わたしは剣道のことはよく分からなくて。
それでも漠然と、練習している姿をすごくかっこいいな、と思った。
きょろきょろと見ていると見覚えのある人を見つける。
確か……颯くんだっけ。
ちなつちゃんの知り合いの。
もしかして、ちなつちゃんは颯くんを見に来たのかな。
聞くに聞けず、ぐるぐる考えていると練習やめ!という声が響いた。
対戦校の人たちが入ってきて、一気に体育館の人口密度が増える。
これ、わたしたちって帰った方がいいんじゃないかな……
そう思って周りを見るけど、誰一人そんなことを気にしている人はいないみたいで。
剣道部の人たちも大変だな。
練習試合っていうだけでこんなに注目を浴びちゃって……
思わず剣道部の人たちに同情していると、試合が始まった。
しん、と体育館の中に緊張が走る。
審判の始め、の合図でお互いの掛け声や竹刀のぶつかる音、移動する音が響いた。
す、すごい……
さっきと迫力が全然違う。
あまりのすごさについ見入ってしまう。
一本!!という審判の声で周りから喚声があがった。
よ、よく分からないけど、みんなが喜んでいるってことは勝ったのかな?
「どう?すごかったでしょ?」
ちなつちゃんがわたしの隣から聞いてきた。
視線をずらせば明乃ちゃんもいるけど、明乃ちゃんは隣でやっている試合に集中しているみたいで、わたしたちの声は聞こえていないみたいだった。