あなたの恋を描かせて
「まったく、颯ったら……」
「まぁまぁ、颯くんだって勝ったんだし」
わたしとちなつちゃんは体育館の横で話していた。
なんでも颯くんを待っているみたいで。
明乃ちゃんは何か用事があるとかで先に帰ってしまった。
「それでもギリギリだったじゃない!」
「でも相手の人って、向こうの高校でも実力すごくあった人なんでしょ?」
勝てただけですごいと思うけどなぁ。
でも〜!と悔しがるちなつちゃんに思わず笑みがこぼれる。
さっきちなつちゃんに颯くんのことを聞いたら、幼馴染みであたしの彼氏、と言われて驚いてしまった。
だって、ちなつちゃんからそういうのって聞いたことなくて。
わたし自身もあまり恋愛に関しては聞かないからなぁ。
彼氏のことを自分のことみたいに考えられるちなつちゃんを、ちょっぴりすごいな、と思ってしまった。
「お待たせ」
「遅い!」
ごめんごめん、と言いながら颯くんが小走りでこちらに来た。
その後ろにはゆっくり歩いてくる城越くんがいて。
ドキッ、と一瞬だけ心臓が早くなった。
「あれ、水無瀬さんだ」
「あ、どうも……」
ペコリと頭を下げてから気づく。
「あれ、どうしてわたしの名前……」
「ちなつにいつも聞いてるからね」
朝はすぐに気づかなかったけど、と言う颯くん。
「俺は楠(くすのき)颯って、知ってるか」
すみません……颯ということしか知らなかったです。
とは言えず、曖昧に笑って返す。