あなたの恋を描かせて



できるならその場にいたかったが、そろそろ休憩も終わる頃だと思い、俺はそっとその場を離れた。


体育館に戻ると颯がひきつった顔で来る。



「おい日向。女子全員俺に押し付けてどこ行ってたんだよ」



大変だったんだからな、と言う颯に素直に謝る。



「……なんだよ」



不思議そうな顔をする颯に俺は首を傾げた。


なんだ?



「いや……日向、いいことでもあった?」



さっきと比べて機嫌良さそうじゃん、と言われて言葉に詰まる。


そんなに、顔に出てたか……?



「別に、何もない」


「嘘つけー」



颯の声を無視して俺は練習に戻る。



さっきまであんなに気になっていた女子の声が、全くと言っていいほど耳に入ってこなくなった。


そのかわり、ふとしたときに思い出すのは水無瀬さんのこと。



初めて会って、傘に入れてあげたときの恥ずかしそうな顔。


必死に謝る小さな姿。


初めて見せてくれた控えめな笑顔。



さっきの、幸せそうに微笑んでいた顔……


こんなにも鮮明に思い出せる自分に少し驚いた。






部活が終わり、颯といっしょに体育館を出る。


一人の女子がこちらに向かって来て、少しドキッとするが、その人は赤崎さんだった。


赤崎さんは颯の彼女で、中学も同じだったから顔をあわせる回数はそれなりにあった。



「お疲れさま、颯」


「サンキュ、ちなつ」



笑いあう二人を見て少しだけ羨ましくなったのは言わないでおこう。






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