あなたの恋を描かせて
「お母さんたち、心配してるかな…」
いつもならもう帰っていてもおかしくないような感じだし。
でも連絡をしたくてもケータイはカバンの中。
カバンは部室なわけで。
はぁ、とため息がもれた。
ふと顔をあげると、向こうから傘をさした人が来た。
濃い群青色の傘。
さっきの人と同じ傘……もしかして同一人物かな?
忘れものでも取りに来たのかな、と思って見つめているとその人と目があう。
わたしはその人が意外な人物で、びっくりして目を丸くさせた。
普通に体育館に入っていく姿にほっと息を吐く。
び、びっくりした、な。
ちょっと心臓がドキドキしてる……
傘をさしていた人は同じ学年の城越 日向(しろこし ひなた)くんだった。
頭がよくて、スポーツもできて、おまけに見た目もモデル並にかっこいいと有名。
ただ性格はとってもクールというか……
そこがまたいいって友だちが話してたっけ。
しばらくして出てきた城越くんの手にはタオルがあった。
俯きながら、もしかしてそれが忘れものかな、と思っていた。
「ねぇ、さっきからそこにいるけど」
「え?」
ぱっと顔をあげてみると、目の前には傘をさした城越くんがいた。
「雨宿り?」
「あ、の……えっと、」
話しかけてくれるなんて想像もしていなくて、つい言葉に詰まってしまう。
「傘、ないの?」
真っ直ぐに聞かれて、わたしは思わず首を縦に振った。
城越くんは少し考えるように目線を落として言った。
「入ってく?」
…………へ?