あなたの恋を描かせて
「赤崎さんが学食なのも珍しいよね」
「あ、ちなつちゃんは炊飯器のスイッチが入ってなかったんだって。
それでお弁当作れなかったって……」
朝からそのことぼやいてたな、と思って笑みがこぼれた。
「ねぇ、」
「うん?」
「絵、見せてよ」
ドキッ、と心臓が跳ねた。
それは絵を見せてほしいと言われたからなのか。
それとも城越くんの笑顔になのか……
きっと、いきなり絵を見せてほしいって言われたから、だよね。
「でも、まだ楠くんとちなつちゃんが来てないよ?」
「あいつらより先に見たいから」
ダメ?と少し上目使いで見てくる城越くんに顔が熱くなる。
うわぁ……なんだか恥ずかしい。
でも、他の女の子には見せないような顔を見せてくれるのは……
それは、わたしが城越くんとちょっとでも近い距離にいるんだと思っていいのかな。
そう思うとちょっと嬉しく感じるような。
「わ、笑わないでね……」
緊張で少し震えながら、わたしはスケッチブックを取り出す。
ありがとう、と少し嬉しそうに言って、スケッチブックは城越くんの手に渡った。
城越くんに渡したのは中学のときのもので。
やっぱり、今のを先に渡した方がよかったかな。
でも上手な方を見せてから下手なものを見せるとなんだかな……
しばらくは城越くんがページを捲る音と、わたしの心臓の音しか感じることができなかった。
実際にはそんなに経っていないはずなのに、ものすごく長い時間に感じる。
何も言ってくれない城越くんに、不安からぎゅっと目を瞑った。