あなたの恋を描かせて
「………浅葱」
「何?」
「好きってどんな感じ?」
ぶっ、と何かを吹き出したような音に前を見ると、浅葱が噎せていた。
「どうしたの?」
純粋にそう思っただけなのに、何故か恨めしそうに睨まれてしまう。
「葵がヘンなこと聞くからだろ」
「え、わたしヘンなこと聞いた?」
じ、自覚がない……
「でも、わたしよく分からないんだよね。
恋愛の好きってどんなものなのかなぁって」
好きなものなら、わたしにだってたくさんある。
食べ物とか、教科とか、色とか……
「もちろん、お母さんもお父さんも、浅葱のことだって好きだよ?
友だちのことだって……」
同じ"好き"のはずなのに、恋愛の"好き"はわたしにはよく分からない。
恋愛をしたことないからだよ、と言われても、まず恋愛に対しての"好き"が分からないのに、どうしてみんな恋愛が分かるんだろう。
「なるほどね……」
少し考え込むような浅葱をわたしは見つめる。
こんなこと友だちにはなんとなく相談できなくて。
浅葱にならいいかなぁ、と思って聞いてみたけど。
やっぱり説明となると難しいのかな。
「葵も同じだね、オレと」
「え?」
「オレも、あいつを好きになるまで恋愛とか分からなかったから」
さすが双子だな、と浅葱はふっと笑った。
それわたしも思ったよ、とは口に出さないでおく。
「オレの場合はさ、会ったり話したりするうちに、いつの間にか特別っていうか……
他とは違う存在になってた」
話し出した浅葱の顔がすごく優しくて、つい見入ってしまう。
「そいつの言動で些細なことでも一喜一憂して。
自分でも馬鹿らしく思えるぐらい。
でも……その言葉や行動が他の人とは違って、特別だって思えるんだ」
ドクン、と心臓が音をたてた。
どうしよう………