あなたの恋を描かせて








放課後になり、すぐに席をたつと颯に呼び止められる。



「おい、日向!」


「水無瀬さんと話せ、だろ?」



あれだけ言われればさすがに分かる。


……一応、颯だって俺のことを心配して言ってるんだと分かるから。



「先生に、休むこと伝えたら行く」



そう言うと、後ろから背中を叩かれて。


振り向くと嬉しそうに笑う颯がいたから、怒ろうとした気持ちもどこかにいってしまった。



「部活終わったら校門で待ってるからな!」



それが颯なりの優しさだと分かってはいたけど。


なんだか照れくさくて、振り返らなかった。




無事に先生に休みの許可をもらい、俺は美術部の部室に向かう。


その途中で赤崎さんに会った。



「あ、城越。葵に会いにきたの?」


「まぁ…」



なんとなく気まずくて、赤崎さんから目をそらす。


そんな俺を見て、赤崎さんは少し笑った。



「残念だけど、葵は美術部のところにはいなかったわよ」


「……そう」


「美術部の人たちに聞いたんだけど、葵はいつもここじゃない、違うところで絵を描いてるって」



そこがどこか分からないから困ってるのよね、と赤崎さんはため息をこぼす。



「赤崎さんも水無瀬さんのこと探してるの?」


「え、あー…」



少し言いにくそうに言葉を濁してから、赤崎さんは颯には内緒ね、と言った。



「頼まれたのよ颯に。
ちょっとでも城越の助けになってほしいって」


「颯に?」



絶対に言わないでよ!と赤くなる赤崎さんに、不覚にも女の子らしくてかわいいと思った。



「ありがとう、赤崎さん。今度何か奢るよ」


「あら、それはいいわ。颯に頼むから」



悪戯っぽく笑う赤崎さんに、少しだけ心がほぐれる。


知らず知らずのうちに緊張してたみたいだな。






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