あなたの恋を描かせて
「ちょ、もう……颯が怖がらせるから」
「俺のせい!?」
ちなつちゃんに怒られている颯くん?を見て、少し申し訳なさが募る。
はっ!
こんなことしている場合じゃなかったんだ。
視線をずらすと、ちなつちゃんと颯くんのやり取りを見ている城越くん。
二人のやり取りを見て驚かないのかな。
もしかしてちなつちゃんとも知り合いなのかも、という疑問は今は置いておいて。
……お礼を言うなら、今しかない。
「あ、あの……」
恐る恐る声をかけると、返事はなかったけどこちらに顔を向けてくれた。
それだけで少し気持ちが安心する。
「えっと、昨日はありがとうございました。
おかげでスケッチブックが濡れずにすみました」
ペコリと頭を下げると、城越くんは思い出したようにあぁ、と言った。
「昨日の……」
城越くんが口を開いたのと同時にチャイムが鳴る。
「一時間目、移動授業だ。行くわよ、葵!」
「あ、待ってよちなつちゃん」
城越くんが何か言おうと……でも移動なら行かないと……
交互に見てから、わたしはちなつちゃんの背中を追った。
あれ…何か忘れているような……あ!!
まだ城越くんに言わないといけないことがあったんだ。
振り向くとまだ廊下にいたので、あの!!と声をかける。
「その、肩濡らしてしまってごめんなさい!」
ペコリともう一度頭を下げて、わたしは今度こそちなつちゃんのあとを追った。