あなたの恋を描かせて
どうしたんだ?と思って口を開こうとしたとき、小さな声が聞こえたような気がした。
「……ど……し、て………」
「水無瀬さん……?」
「どうしてっ!!」
キッと顔をあげた水無瀬さんは目に涙を溜めていて。
まるで、子供が面白くなさそうようなことに出会ったときのような顔をしていて、驚く。
「水無瀬……」
「どうしてっ!!」
何が"どうして"なのか分からず、思わず口を閉じる。
「どうしてあーくんは名前であーちゃんは名前で呼んでくれないのっ!?」
「………は?」
名前?
なんのことか分からずにきょとん、としていると、ドアの向こうで浅葱がうわぁ……と声を漏らしたのが聞こえた。
「あーくんだけズルい〜!!あーちゃんも名前がいいのぉー!!」
バタバタと足をばたつかせる姿は、なんと言うか……子供?
というか、今水無瀬さんが着ているのはワンピースの寝間着みたいで、足がばたつく度に白い足がチラチラと見える。
「日向ー、聞こえてる?」
「、あぁ」
視界に入る足を見ないように上を向いて颯に返事をする。
「水無瀬さん、いつもと様子違うでしょー?」
「あぁ……」
「水無瀬さん、熱出ると子供みたいに甘えん坊になるんだってー」
「………は?」
……なんだと?
何を言われたのか分からずに、一瞬頭の中が真っ白になる。
いや、確かに言われてみれば雰囲気とかいつもより幼いけど。
「城越、悪い……
一度起きたら、葵は寝るまで言いたいことやしてほしいことを言う。
本当に悪いけど、葵のワガママにつきあってくれ……」
頼む、と言う浅葱の声には実感がこもっていて。
多分、今までに何度か苦労したんだな、と少し同情した。
下に目線を下げるとまだ水無瀬さんはバタバタしている。
心を落ち着かせるために一回深呼吸をする。