南の島で自転車に乗って(8p)
街
その店は薄暗くて、ちょっと見、誰もいないみたいです。
でも、よくよく見ると腰をかがめたじさまが、油の匂いの染み付いた土間に座り込んで、古い自転車をいじっているのがわかります。
そして、店の前を自転車が通るたびに、すすけた眼鏡の上から、通り過ぎる自転車を目で追いかけ、ペダルが悪いだの、チェーンが緩んでいるだのと、ことごとく文句を言うのでした。
そのじさまの名前は隆造。
この場所で自転車屋を始めてから、もう何十年にもなっていました。
昔は自転車屋も満更捨てたもんじゃありませんでした。
近所の小学生がそばにくっ付いて、じっと眺めていたものです。
ところが、最近ではどうでしょう。
みんな奇麗な店で買いたいのか、隆造の店には鼻っから寄り付きもしません。
そうなると、ますます隆造の悪態は増えるのでした。