南の島で自転車に乗って(8p)
 
隆造は照れました。
本気にしている自分が年甲斐もなく、妙に恥ずかしかったのです。

しかし、両手を広げて空を飛んでいる自分の姿を想像すると、隆造はもう何としてでも飛んでみたいと思ったのでした。

女の子の後を付いていくと、無事頂上に辿り着きました。


「ね、きれいでしょ。わたし、世界中で、ここが一番好き」

(ここしか知らんくせに大袈裟な・・)
頭では否定していました。
しかし、見渡す限りの大海原にぽつんと浮かぶ小さな島を前にして、隆造は息を呑んだまま、身動きもできずに眺めていました。

そうしている間に女の子は崖の方に自転車の向きを変えています。

我に帰った隆造は、その崖に歩み寄り、恐る恐る下をのぞき込みました。


そこには歴史を感じさせる無数の轍の跡が細い道となって急な斜面を真っ直ぐに海に向かって下っていました。

「じさま、早く乗って」

女の子は自分の自転車の後ろに乗れと、手で荷台を叩いています。

「恐くなったんでしょ。大丈夫よ」

隆造は恐る恐る荷台にまたがり、女の子の腰に手をまわしました。

女の子は振り向くと目で合図をして、ゆっくりとペダルをこぎ始めました。

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