南の島で自転車に乗って(8p)
がくんと前輪が崖っぷちを乗り越えると、もう後には引き返せません。
一気に自転車は前つんのめりで落ちるように下っていきました。
車体は激しく揺れて、車軸がきしみます。
地面を転がりながら、タイヤはけたたましい音をうなりあげます。
二人を乗せた自転車はみるみるスピードを増していきました。
「じさまぁ、いーい、飛ぶよぉ」
隆造は目を堅く閉じると、女の子にしがみつきました。
ふわあっと体が軽くなりました。
突然、うるさかった音すべてが消えました。
目を開けると、目の前には藍い海が広がっています。
「ぅはぁっー」
隆造は両手を広げました。
はるか昔、少年時代に夢見たように今、隆造は空を飛んでいるのでした。
横を見ると女の子も両手を広げて空を飛んでいます。