南の島で自転車に乗って(8p)
気がつくと隆造は仰向けに倒れていました。
傍らには自分の自転車が転がっています。
回りを見渡しても、そこに女の子の姿はありません。
隆造はゆっくりと上体を起こし、ただ呆然と自転車を眺めていました。
やがて、隆造はすべてを悟りました。
鼻先から、吹き出してくるような笑いが込み上げてきました。
無性に可笑しくて、本当に可笑しくて、声を上げて笑いました。
しかし、緩んだ頬の筋肉は次第にこわばり、みるみる顔はくしゃくしゃになっていきました。
鼻の奥から熱いものが、次から次へと込み上げてきます。
「すまん・・・」
口も開けずにそう呟く唇は、わなわなと震えています。
「・・・すまん」
わかっていながら、隆造は一番辛かったハルを守ろうともしなかったのです。
かえって無言で、ずっとハルを責め続けていたのかもしれません。
隆造はハルが亡くなって、初めて娘の死を受け入れることができたのでした。
しかも、そんな隆造をハルは許してくれたのです。
ハルの供養のために島に来たつもりでした。
しかし、救われたのは隆造自身でした。