シオン【完結】
「……」
久美は確かに、祥太郎が轢かれた直後半狂乱になっていた。
そして、すぐに意識を失っていた。
それが、もしも。
事故のショックとかでなくて。
“戻った”としてならば。
俺達は、自分自身の手でただ、傷口を抉っただけだったんだ。
“…結局ね。元に戻っただけなんだ。
だから、これが本当の世界の様で少し違う世界”
それが、真理。
「なあ、俺の勝手な考えなんだけど。
違ってたら言ってな?」
無言だった祥太郎がふいにそう言う。
俺は返事の代わりに、祥太郎に目線を合わせた。
「…俺がいない世界で、りょうは久美と付き合ってた?」
「………」
ドクンと一度、心臓が鳴る。
祥太郎から目が離せない。
肯定も否定も出来ず、俺は口を噤む。