シオン【完結】


「……」



久美は確かに、祥太郎が轢かれた直後半狂乱になっていた。
そして、すぐに意識を失っていた。


それが、もしも。
事故のショックとかでなくて。


“戻った”としてならば。



俺達は、自分自身の手でただ、傷口を抉っただけだったんだ。



“…結局ね。元に戻っただけなんだ。
だから、これが本当の世界の様で少し違う世界”


それが、真理。


「なあ、俺の勝手な考えなんだけど。
違ってたら言ってな?」


無言だった祥太郎がふいにそう言う。
俺は返事の代わりに、祥太郎に目線を合わせた。


「…俺がいない世界で、りょうは久美と付き合ってた?」

「………」


ドクンと一度、心臓が鳴る。
祥太郎から目が離せない。


肯定も否定も出来ず、俺は口を噤む。

< 146 / 236 >

この作品をシェア

pagetop