シオン【完結】
「久美!」
どうにか、泣き止んだけどその場から動けなかった。
桶を戻しに行くだけなのに、戻らない私を不審に思ったんだろう。
遼佑がやって来て、私の前へと走り寄った。
遼佑の息が切れてる。
走って探してくれたんだ。
それを申し訳なく思うけど。
泣いた顔を見られたくなかった。
きっと、また遼佑を悲しませるから。
「どこまで返しに行ってたんだよ。探したんだぞ!」
はあっと大きく息をつき、そう言うと遼佑は私の頭にゲンコツを優しくコツンと当てた。
「ごめん」
「まあ、何もないならいいや。行こ」
「うん」
遼佑は何も聞かない。
その気遣いが、嬉しい。
先に歩く遼佑の背中を見上げる。
自然と私の手が遼佑に向かって伸びた。