シオン【完結】
それが、始まる
「それじゃあね」

「ああ、また明日」


途中まで久美と一緒に帰っていた。
分かれ道まで到着すると、久美がそう言う。

俺も返事すると、手を振って別れた。


少し薄暗くなった道を歩きながら、俺は今日あった出来事を思い返していた。


あの時間まで、久美とこうやって会話する事はないと思ってた。


久美は変わらない。

その、変わらない久美がとてつもなく愛しく感じる事。


…よかったよ、この記憶は二十歳にならないと戻らなくて。


俺が好きだったって事実も、付き合ってたって過去も、思い出すのは二十歳になってから。


だから、あの時間以降の俺は普通に久美と祥太郎と接する事が出来る。




久美を好きだったって事実も、祥太郎が死んでいたって言う事実もなくなるんだ。




…その未来は幸せだと思った。

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