博士と秘書のやさしい恋の始め方
◇要注意人物?
うららかな春の光をうけて美しく咲きほこる桜並木。
まるで満開の桜のアーチをくぐるようにして、通勤バスが先を急ぐ。
学術都市として計画的に造られたこの街には様々な特徴がある。
道路がやたら広いのも、桜に限らずきれいな並木が多いのもそのひとつ。
道路沿いに等間隔に植えられた木々たち、整然とした街並み。
この整いすぎた感じを嫌いという人もいるけれど、私はけっこう気に入っている。
だって、東京はちょっとうるさ過ぎたから。
すべてが過密で複雑で、その喧騒に常にあてられているようで苦しかった。
それに――いろいろなことがあり過ぎた。
社会人になってからずっと、目の前のことをがむしゃらにやってきた。
仕事も趣味も、恋愛も。
だけど、少し息切れしてしまった。
恋を失って、その辛さを忘れるために、苦しさから逃れるように、さらに仕事にのめりこんで。
好きで打ち込んでいたはずの趣味も楽しむことができなくなって。
そうしていつしか、自分を見失いかけていた。
折しもそんなときだった。
東京を離れることになったのは。
山下沙理(やましたさり)、二十八歳の春。
二度目の異動で初めての転勤だった。
まるで満開の桜のアーチをくぐるようにして、通勤バスが先を急ぐ。
学術都市として計画的に造られたこの街には様々な特徴がある。
道路がやたら広いのも、桜に限らずきれいな並木が多いのもそのひとつ。
道路沿いに等間隔に植えられた木々たち、整然とした街並み。
この整いすぎた感じを嫌いという人もいるけれど、私はけっこう気に入っている。
だって、東京はちょっとうるさ過ぎたから。
すべてが過密で複雑で、その喧騒に常にあてられているようで苦しかった。
それに――いろいろなことがあり過ぎた。
社会人になってからずっと、目の前のことをがむしゃらにやってきた。
仕事も趣味も、恋愛も。
だけど、少し息切れしてしまった。
恋を失って、その辛さを忘れるために、苦しさから逃れるように、さらに仕事にのめりこんで。
好きで打ち込んでいたはずの趣味も楽しむことができなくなって。
そうしていつしか、自分を見失いかけていた。
折しもそんなときだった。
東京を離れることになったのは。
山下沙理(やましたさり)、二十八歳の春。
二度目の異動で初めての転勤だった。
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