博士と秘書のやさしい恋の始め方
◇いっそさらってくれたら……
「付き合っちゃえばいいのに、田中先生と」
「そ、そんなこと言われても……」
私の一存ではどうにもこうにも……。
部活のあと、久しぶりに美緒とふたりで話をした。
いつもなら部の活動場所である多目的室でそのままお昼にしてしまうのだけど、今日はめずらしく外のベンチまで移動した。
こういう言い方もあれだけど、うちの職場は無駄に広い。
敷地の広さもさることながら、各建物の中にも“ゆとり(遊び?)”のスペースがふんだんにあるし。
ちょっとした休憩やミーティングのできる場所がそこここに用意されている。
今日は朝から穏やかに晴れていて芝生でランチするにはもってこい。
でも、外へ出たのはそれが理由じゃない。
わざわざひとけの少ない場所を選んだのは、それなりの話をしたかったから。
「話を聞く分にはさ、田中先生って沙理に気があるとしか思えないんだけど」
「それはまあ、嫌われてはいないと思うよ。気に入ってもらえているというか……」
先生と私の関係は良好といえば良好。
一時は私の勝手な誤解でぎくしゃくしたけれど、それも解消されたし。
けれども、小康状態といえば小康状態でもあった。
ゲームの世界では、ゲーム内のイベントに一緒に参加したり、互いの村を行き来したり。
ときには、文字だけではあるけれど会話をしたり。
沖野先生が「お若いふたりの邪魔はしないわ(ニヤリ)」と別のゲームに鞍替えしたこともあり、ここ最近はずっと、田中先生と私のふたりきりでゲームに興じている。
親密度はぐんぐん上昇中、といっても……それはあくまでもキノコとニュートリノさんの話。
現実、職場での先生と私の関係は相変わらず。
以前よりも雑談する機会はずいぶん増えた気はするけれど、だからといってこれといった大きな進展は特にない。
「沙理が一押しすればいけそうじゃん」
「一押しって……」