博士と秘書のやさしい恋の始め方
「沙理」

「うん?」

「沙理に好きな人ができてよかったよ」

「うん」

「応援、してるからね」

美緒はそう言うと爽やかに笑って、勢いつけてひょいっと軽やかに立ち上がった。

「私も美緒のこと応援してるよ」

私は座ったまま、青空を背に凛と佇む美緒を見上げた。

「あらためて、結婚おめでとう」

「うん。ありがとう」

「土曜日も今日みたいに晴れるといいね」

「そうだね」

「結婚式、楽しみだなあ」

今週末、美緒はいよいよ花嫁衣裳を着る。

親友の大事な門出の日が、どうか素敵に晴れますように。

私はまぶしさに目を細めつつ、美しい青空に思いをはせた。



金曜日の夕方。

備品庫のチェックを終えて居室へ戻ると、田中先生は実験中で席をはずしていて、古賀先生と布川先生がそれぞれのデスクで仕事をしていた。

私もさっそく席に着いて備品リストの整理をしようと思ったら――。

「山下さん。ちょっといいかな?」

少し話があるからと布川先生の席へ呼ばれた。

何の話だろう? 

とりあえず用件が思いつかないけど。

それに、古賀先生がなんだか少し心配そうな顔をしているのはなぜ? 

いろいろ気になりつつ、私は布川先生の席へうかがった。

「なんでしょうか?」

「うん。あのね、さっき丹下(たんげ)先生から電話があってね」

丹下先生は同じ3号棟のラボの先生で、確か眼鏡をかけた女性の方だったと思う。

うちのラボと特に密に連携しているわけでもないので、よくは存じ上げていないのだけど。

「山下さん、うちのRAの旅費精算とか手伝ってあげたでしょ?」

「えっ」
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