博士と秘書のやさしい恋の始め方
恥じらいもなく期待してしまう自分がいて、それを察して欲しい自分がいる。

でも、知られたくない自分もいる。

期待の中に戸惑いが混じるもどかしさに、胸がきゅうっと苦しくなる。

そんな私の表情を、先生が静かに見つめている。

先生は私の髪にそっと触れると、少しばかり撫でるように優しく梳いた。

「今日は本当に、こんなふうに会えるなんて思ってもみなかった」

「私もです」

ぎこちなく微笑むのが精いっぱいだった。

だから、すぐに目を伏せた。

そうして、近づく先生の気配を感じながら黙って目を閉じた。

本当に、こんなふうに会えるなんて。

こんなふうに、想いを確かめ合えるなんて。

先生のキスはとても優しくて、心がとろけるというよりも、するするほどけていくようだった。

互いに求め合ってる感触にすごくドキドキする。

でも、確かめ合えてる感覚が心地よくて安心もする。

私はぐんぐん加速する想いに切なくなりながら、手探りするようにして先生のシャツをぎゅっと掴んだ。

いつまでもこうしていたい。

互いにそう思っていることがわかった。

わかったから、名残惜しくもはなれることができた。

高揚感と幸福感で胸がいっぱい。

気持ちを落ち着けようとしたら、思わず甘い吐息がこぼれた。

「どこまでも可愛い人ですね、あなたは」

「先生はどこまでも意地悪です」

意地悪言うのも意地悪するのも、どうか私だけにしてください。

これからも、ずっとずっと。

優しい田中先生のことだもの、きっと私のわがままを聞いてくれるはず。

嬉し恥かしで拗ねる私の髪に、先生は優しいキスをひとつくれた。

「車を出すまえに少し話してもいいですか?」

「えっ。はい、もちろんっ」
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