博士と秘書のやさしい恋の始め方
◆秘書と博士の宇宙旅行
休日だというのに、昨日につづいて今日もまた雨とは。

それでも悪い気はしなかった。

これから彼女に会えるのだから。

それにしても――昨日は本当に驚いた。

まさか、あんなところで彼女に遭遇するとは。

武道場の玄関で周と話す山下さんを見たとき、一瞬だが頭が混乱した。

俺が彼女のことばかり考えていたからか? 

妄想か、幻覚か? 

そんなことが頭をよぎった。

けれども、彼女は正真正銘の本物の山下さんだった。

俺は彼女と縁がある。

周が言うことを素直に認めるのは少々悔しい気もするが、奴の言うとおりだと思った。

神様が俺の背中を思いきり強く押しているのだ、と。

そして、縁という名の嬉しい偶然に鼓舞されて、彼女とあらためて気持ちを確認し合うことができた。


彼女を家に送るまでの間、車の中でたくさん話しをした。

「そういえば、武道場の前なんかでいったい何をしていたのですか?」

「それはですね、看板を見ていたんです」

「看板?」

「そうです。あの“桂林館”と書かれた看板です」

確かにあの武道場の建物は桂林館という名称で、わりと立派な木の看板がかけられているが。

なんでまた?

「とってもいい字だなぁって気になって、近くで見てみたくなって。それで……」

「なるほど」

山下さんは書道をやっているからな。

三角さんからの情報によると、腕前もたいしたものだというし。

俺は看板の文字に目が留まることなどないが、彼女のそういった物への眼差しに感心した。

そして、周がやけにニコニコ話していた理由を理解した。

「周のやつ、喜んでいたでしょう?」

「え?」

「聞いてないんですか? あの字を書いたのはあいつだって」

「えっ!?」


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