博士と秘書のやさしい恋の始め方
なるほど、そういうことだったのか。
俺は気が短いほうだし、遠回しな言い方はあまり好まない。
しかしながら、彼女のこの回りくどさにはイライラさせられるどころか、いい具合にやられてしまった。
「ぜひ来てやってください。こいつも喜んで活性化することでしょう」
「活性化、ですか?」
「そうです。生産性があがってじゃんじゃんATPを生成します」
「ATP……逆から読むとPTA?」
「細胞や器官を動かすエネルギーです。生物で習いませんでしたか?」
おっと、自分の専門の話になるとつい……。
けれども、山下さんはくすくす笑って楽しそうだった。
「きっと習ったんでしょうね、忘れちゃいましたけど」
俺は思い切って提案した。
「今週の金曜はどうですか?」
「え?」
「よかったら、会いに来ませんか?」
「ぜひ。遊びに行かせてください」
返事はわかっていたが、彼女のはにかんだような笑顔に、安堵と嬉しさがこみあげた。
「では、また明日」
「はいっ。あ、気をつけて帰ってくださいねっっ」
「わかりました」
彼女が降りると、車の中はとたんにがらんと淋しくなる。
けれども、今夜は少々事情が違う。
助手席にぽつんと置かれたミトコンドリアに、奇妙な具合に笑いを誘われる俺なのだった。
俺は気が短いほうだし、遠回しな言い方はあまり好まない。
しかしながら、彼女のこの回りくどさにはイライラさせられるどころか、いい具合にやられてしまった。
「ぜひ来てやってください。こいつも喜んで活性化することでしょう」
「活性化、ですか?」
「そうです。生産性があがってじゃんじゃんATPを生成します」
「ATP……逆から読むとPTA?」
「細胞や器官を動かすエネルギーです。生物で習いませんでしたか?」
おっと、自分の専門の話になるとつい……。
けれども、山下さんはくすくす笑って楽しそうだった。
「きっと習ったんでしょうね、忘れちゃいましたけど」
俺は思い切って提案した。
「今週の金曜はどうですか?」
「え?」
「よかったら、会いに来ませんか?」
「ぜひ。遊びに行かせてください」
返事はわかっていたが、彼女のはにかんだような笑顔に、安堵と嬉しさがこみあげた。
「では、また明日」
「はいっ。あ、気をつけて帰ってくださいねっっ」
「わかりました」
彼女が降りると、車の中はとたんにがらんと淋しくなる。
けれども、今夜は少々事情が違う。
助手席にぽつんと置かれたミトコンドリアに、奇妙な具合に笑いを誘われる俺なのだった。