博士と秘書のやさしい恋の始め方
「とにかくラボ全体がすっきりして、仕事がしやすくなりました」

「そう、言っていただけると……」

田中先生が私の仕事をこんなふうに見ていてくれたなんて。

どれもこれも本当に小さなことばかり。

そのひとつひとつを丁寧に評価してもらえて、とても嬉しかった。

仕事がしやすくなったと言われて、とても誇らしかった。

だって、私の仕事は秘書だから。これほどの褒め言葉ってないと思う。

「本当に、とても助かっています」

「そんなこと……だって、それが私の仕事ですから」

「だからといって誰もが仕事で結果をだせるわけではない」

先生の言葉には重みがあった。結果がすべてのシビアな世界に身をおいている研究者の。

先生の言うとおり、誰もが結果をだせるわけでないのは本当。

そして、結果を出すための努力を続けられるかどうかも。

「ところで、この段ボールは何に?」

「それは……ヒミツです」

ちょっともったいつけてみた。先生が知りたがってごねてくれるのを期待して。

「そうですか」

あらら……やっぱりさらりと流された。ま、想定内だけど。

「そのうちわかりますから。どうぞお楽しみに」

私、もっともっと頑張りますから。

田中先生が……ラボのみんなが快適に仕事できるように、くつろげるように。

その段ボールもこれから活躍しますからね。

漁ってよかった段ボール。入ってよかった段ボール(え?)

ちょっと疲れ気味かなぁなんて思っていたのが嘘みたい。

急に力と元気がわいてきた。
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