博士と秘書のやさしい恋の始め方
「祝福してくれるのかい?」

「もちろんです」

「本当に?」

「ええ」

煩わしいなぁ、もう……。

「いやあ、それを聞いて安心したよ」

「何がです?」

「何がって……」

「私が何か先生のご結婚をぶち壊すようなことをするとでも?」

そうやって「まずい」と思うってことは、私に恨みを買うようなことをしたっていう自覚があるわけじゃない。

「君ねぇ……」

途端に遊佐先生の目つきが変わった。

「恋愛は自由だろう? 僕らは将来を約束したわけでもなんでもなかったんだから」

「そうですね」

はいはい、もうわかってますって。先生の自信満々の理論武装。

「僕が結婚をエサに君から金を騙し取ったりしたかい?」

「いいえ」

「だからね、あることないこと誤解を招くようなことを言って騒ぎ立てるようなまねはしないで欲しいんだよ」

相変わらずだな、この人は。どこまでも自分中心で身勝手な人。私を傷つけておいて、その自覚があった上でさらにこんなこと……。

「わかってるよね? 君が僕の結婚を邪魔するようなまねをしたら、僕は承知しないよ?」

ここまでくるともう、悔しいとか腹が立つとかより、彼のことがひどく滑稽で哀れに見えた。

「遊佐先生は勘違いをされています」

「勘違い?」

「私、もうまったく関心がないので」

「は?」

「ですから。遊佐先生にはまったく関心がないので。いつどこでどなたとご結婚されようとどうでもいいんです」


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