博士と秘書のやさしい恋の始め方
「それにしてもさ、沙理の字はやっぱりいいよねぇ」

美緒は空いてるテーブルの上で乾かしている私の作品(というほどのものでもないけど)を見遣った。

やっぱり、美緒は優しい。もちろん、字を褒めてくれたからではない。

こんなふうにサッと話題をキレイに変える気遣いとか。優しくて頼りになるなぁって。

「美緒にそう言ってもらえると嬉しいな。私ね、最近また書くのが楽しくなってきたんだ」

「おっ、いい感じじゃん。披露宴の招待状の宛名、沙理が引き受けてくれて本当に嬉しかったんだから。そうそう、特に親戚から大好評!もう大絶賛!」

「書道、続けてきてよかったよ」

まさに継続は力なり。

書写教室をやっていた祖父の影響で私が書道を始めたのはまだ幼稚園の頃。

それからずっとこつこつと続けて、今では毛筆の代筆を頼まれるくらいに上達した。

「けどさぁ……アレはなんなの?」

美緒はテーブルに並んだ字の中で、ひときわ目立つ異色の(?)一枚を指差した。

もちろん、異色といっても朱書きというわけではない。

「ちょっとねー。ラボで使おうかなって思って」

「あー、なるほどそれで」

その一枚をしげしげと眺める美緒と、大満足の出来栄えににんまりする私。

しっかりリフレッシュして、午後の仕事もいっそう頑張れそうな気がした。
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