博士と秘書のやさしい恋の始め方
ちょうどその日、布川先生は出張で不在。だから、田中先生にお伺いをたててみた。

「かまいませんよ。行ってあげてください。“山下さん”も」

答えは予想通り。まあ、却下ってことはないとは思っていたけど。

それにしても、わざと職場モードの口調で返してくるとは。ちょっと……憎らしいじゃない?

「ありがとうございます。田中先生」

「問題ないです」

私がぴたりと寄り添うと、彼はその腕でいっそう私を自分のそばへ抱き寄せた。

田中先生と山下さん、ラボでは絶対にこんなことしないけど。

自分で言うのもなんだけど、ラボでは本当にビジネスライクに振る舞えていると思う。

でも、その反動っていうのかな? こうしてプライベートな時間となると、けっこうべたべたくっついていることが多いかも。

「私、ちょっとくっつきすぎというか、甘えすぎでしょうか」

「そんなことはない」

「そうかなぁ」

あ、うっすらと煙草の匂いがする……。

せっかくお風呂に入ったのに。さっき一服しにベランダに出ていたものね。

あーあもう、本当にやめる気あるのかなぁ、煙草……なんてことを考えつつ、彼のぬくもりに目を閉じる。

「べったりを通り越して、ねっとりとかべっとりって感じしません?」

「いきなり粘性が高くなったな」

「だって……」

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