博士と秘書のやさしい恋の始め方
本当にそう思うのだもの。

彼はいつも私を猫みたいだというけれど、最近は自分でもとくに思う。

勝手気ままで自分本位、わがまま放題の猫みたい。

相手の都合なんておかまいなしで、自分にとって居心地のよい場所に陣取って断固として動かない。

気の向くまま、気のすむまで。

猫好きに悪い人はいないと言うけれど、それって懐の深さなのだ。

そして、私の隣にいるこの彼もまた猫好きのひとり。寛容で奇特なよき理解者。

彼のその懐は私のためだけに開かれていて、私はいつでもそこへ飛び込んで最高の安らぎを得ることができるのだから。

「気にすることはない。俺だって――」

「うん?」

「ごろにゃん甘えたいときはあるのだし」

ご、ごろにゃん……!? 

途端に頭に浮かんだのは、やたらと愛くるしい仕草で甘えるちょっと強面の(?)大型の猫だった。

「靖明くんがごろにゃん、ですか?」

「説明が必要だろうか?」

「ううん、大丈夫です。大丈夫……」

大丈夫なんだけど……ダメだ、やっぱり笑いがこみ上げてきちゃう。

だって、ラボではクールで仕事ができて、ちょっと気難しくてあまり笑わない彼が――ごろにゃん? 

おかしいでしょ、おもしろいでしょっ。

可愛いでしょ、可愛すぎるでしょっっ。

「沙理。笑いすぎ」

「笑うのは健康にいいんですよ」

「それは、健康増進に協力できて何よりだ」

「いつも元気をもらってます」

元気だけじゃなくて、いろんなものをもらっている。

癒しとか安心とか、勇気とか自信とか。

彼と一緒にいると、私はいっそう私らしくいられる。
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