博士と秘書のやさしい恋の始め方
我がままありのまま、私はまるで飛びかかる猫にように彼にワシッと抱きついた。

「“Trick or Treat?”。乾きものだけじゃなくて、甘いものも食べたいです」

「残念ながら気に利いた菓子はないな」

「しょんぼりです……」

「すまない……。かわりに悪戯なり何なりするといい」

そうして彼はなかなか潔いことを言いながら、ソファーに私を押し倒した。

「靖明くん。本当に悪戯される気あるんですか?」

「もちろん」

私のこと、ソファーの上に組み敷いておいて? 

まあ、真剣にふざけようとする心意気(?)は買うけれど。

「私、チョコとビスケットが合体したみたいなやつが食べたかったです」

恨めしそうに言いながら彼の眼鏡をそっと外す。

今ではもうずいぶん見慣れた素顔だけれど、やっぱりちょっとドキドキする。

「あいにく魔法使いじゃないんで。覚えておくから、また今度」

「約束ですよ」

「約束だ」

約束のしるし、とでも言うのかな? 唇に優しいキスがふわりとひとつ。

< 222 / 226 >

この作品をシェア

pagetop