博士と秘書のやさしい恋の始め方
戯れるとはこういうことを言うのだと思う。

再生を続ける猫番組をそのままに、彼と私はそれこそやんちゃな猫たちのようにじゃれ合った。

耳を優しく食まれては、甘いくすぐったさに身をよじり、そうかと思えば、今度は反撃とばかりに彼の脇腹をこちょこちょと姑息に攻撃する。

しかけたりしかけられたり、攻防戦というにはお粗末なおバカなおふざけに夢中になった。

「もう、私たち何やっているんでしょうね」

「まったく」

「いいオトナなのに」

「いいオトナだからとも言う」

「まあ、確かに……」

ほつれた髪と脱ぎかけ(脱がされかけ?)のパジャマに、思わず納得の苦笑い。

「私、落っこちないように頑張るの疲れちゃいました」

「俺も。窮屈で窮屈で」

すぐ隣が寝室なのに。本当にもう、いいオトナはこれだから……。

「移動開始かな」

「ですね」

よれっとした姿で、よろっと立ち上がる。

猫番組を停止して、しっかりテレビを消して、と。

流れとか? 雰囲気とか? そういうのを取っ払った律義さが、所帯じみていて間抜けっぽい。

でも、なんだろう? この生活感がひどく嬉しくて愛おしい。

しかも、彼がまたベッドの上で真面目な顔で冗談なんて言うからもう……。

「あなたのために心をこめてくり抜きました、ミトコンドリア」

彼はミトコンドリアのみーちゃんをパカッと割ると、棚のような空洞のある断面を見せつけた。
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