博士と秘書のやさしい恋の始め方
「ちょっ……もう、初めからこうだったじゃないですかっ。無駄にパッカーンしなくていいので。みーちゃんを元に戻してください」

「半割できるのだから、片割れを沙理のうちへ置くというも可能だが」

「いいんですっ」

私は彼からみーちゃんを奪うと、丁寧にマジックテープのついた断面をくっつけ合わせた。

「バラバラより、こうしてくっついていたほうがいいんです」

「確かに」

そうして私たちは、ぴたりとくっついて抱き合った。

肌がしっとり馴染んで、ぬくもりがとけあう感じが心地よい。

もう仔猫同士のような攻防戦を繰り広げたりはしなかった。

彼はひたすらに愛猫を愛でる懐深い飼い主で、私はおとなしくされるがままの猫だった。

さて、この猫は――飼い主に従順なよい猫なのか? それとも、「撫でさせてあげてもよくってよ」という尊大な我がままペットなのか? 

どちらにしても、とても幸福な猫であるのに違いない――。


「俺もひとつ見に行こうかな、そのハロウィンイベントやらを」

「え?」

乱れたシーツに溶け込むようにまどろんでいると、彼がベッドの端に腰かけながらふいに言った。

「俺、その日はきっと総務課に用事ができるから。そのついでに見てやろうじゃないか、駿くんの力作とやらを」

「本当に総務課に行く予定なんてあるんですか?」

根拠のない未来予測。っていうか、勝手に都合よく口実を作るつもりなだけだよね。

「研究員は残業代の出ない裁量労働だからな。これくらいの自由度がないとやっていられない。もちろん作業に支障をきたすことはない。何か問題でも?」

「いいえ、何も。よろしいんじゃないですか、“田中先生”のご判断で。駿くんは嬉しいと思いますよ。お友達の“田中クン”が来てくれたら」

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