博士と秘書のやさしい恋の始め方
彼女はそれこそ一瞬だけ狐につままれたような顔をしたが、すぐに参りましたと恥ずかしそうに微笑んだ。

「田中先生は意外と意地悪なんですね」

こんなふうに笑って許してくれるという確信があった。

「すみません……」

山下さんなら怒らないだろうと思ってやりました……。

「私も、すみません」

「え?」

なんのことだろう?

「“一瞬だけ”なんて嘘ですもん。絶対無理ですもんね」

「それはそうだ」

目があって思わずふたりで笑い合う。

他愛のない会話でも、山下さんとだとおもしろい。

なぜだろう、不思議なものだ。

「で、用件はなんでしょう?」

「はい、恐れ入ります。それでは二点ほど――」

山下さんはコホンとひとつ咳払いすると、わざとあらたまった調子で話し始めた。

「まず、来週の土曜日に予定されているレイアウト変更の件なのですが」

「はい」

「私もお手伝いさせていただこうと思いまして――」

「え?」

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